百合についてのメモ

なぜ百合がないのではなく、百合があるのか

最近のコミック百合姫にはSF漫画が載っているらしい

百合漫画についての記事を不定期で上げていきたいと思いブログを始めました。どうぞよろしくお願いいたします。

最近になってSF界隈の方から「今のコミック百合姫にはSF漫画が載っているらしい ……」というのを耳にしたので、単行本になっているものから見つけてきてレビューを行うことにしました。

なおここで「最近の」という言い方をしていますが、雑誌としてのコミック百合姫は2017年初頭に大きな変化を経験しています。

 コミック百合姫は2016年11月号よりそれまでの隔月刊行から月刊発行に移行、さらには2017年1月号からは掲載作品を大きくリニューアルし、『私の百合はお仕事です!』『たとえとどかぬ糸だとしても』,etc.を含む一気に10本の新連載が始まりました(ちなみに2017年12月号においては編集長が創刊号からのりっちぃ氏からぱいん氏へ引き継がれることが発表されています)。

ここで取り上げた百合姫作品はこの時期以降に連載開始されたものであり、「最近の」というのはこの時期以降のことを指すと考えていただければと思います。


異色の百合妊娠SF『イヴとイヴ』

庄司創先生の『白馬のお嫁さん』は男性妊娠SFであったけれどこちらは百合妊娠SF。

何かTwitter上でバズってた、女性二人の脳が水槽に浮かんで「私たち、ずっと一緒だよね!!!」とか言ってるセンセーショナルな画像の漫画です(それ目当てに買うのはどうかと思いますが……。

本筋とは関係ないけど、ガッツリ快楽天的なSEXシーンが入っててちょっと驚いた。これ本当に百合姫に載ってたのか……??と思ったのだけれど、頭二作はキルタイムコミュニケーションのアンソロジー「百合妊娠」に載ってたやつとのことで何か納得が行った。

短編集で、 収録作のうちSFと呼べるのは6作中3作品で、終末百合やセクサロイドものを含み三者三様。巻頭作の「奇跡の好きを遺したい~宙~」は天変地異で女の子二人以外の人類が滅んだ世界で二人が子孫を残そうとする百合で、一番直球で良さが分かりやすいかと思う。

シチュエーションは『火の鳥』を彷彿とさせるようなスケール感のSFで、ぶっちゃけSFとしての新奇性(という意味での真新しさ)はないんだけど、百合との組み合わせという意味ではなかったのかなあと思います。たとえば百合という題材で愛の永遠性を扱おうといった動機は納得できます。

この作家先生はSF以外にもダークな百合を描いていたり、総じて画力も演出力も高く、今後色々な伸び代が期待できるかと思う。


新機軸のロボットSF『Roid-ロイド-』

Roid-ロイド-1 (百合姫コミックス)

Roid-ロイド-1 (百合姫コミックス)

 

 こちらは未来ロボットもので長編。ロボット研究部の女子高生たちが主人公。
ロボットが民間にかなり普及していながらもまだ人間と完全に区別が付かないようなAIは開発されておらず、意識をロボットに転写できる技術が違法となっている世界。

三人で行っていたアンドロイド開発の完成間際に、天才AI開発者の玲那が何者かのロボットに誘拐されてしまう。足の自由がきかない唯は後輩を助けるため、違法とされる意識のコピーを行いアンドロイドに自己の意識を複製して救出に向かう――。

こちらもSFとしてはアシモフの時代のようなクラシックなロボット暴走事件簿といった趣ですが、意識の複製を扱っているというところで百合的な要素が付加されています。

意識の複製によって生まれた唯のアンドロイドが元とは別の人格=杏那を持つようになりますが、人格コピー元の唯は完全な状態の身体を持ち活躍できる杏那を羨むようになり、杏那はコピーとしての自己の存在に葛藤し、後輩に慕われる唯を見て疎外感を感じるようになる……といった具合に、後輩の玲那と両者との間に三角関係が生まれる形になっています。

ただこれについては、いまのところ百合的な関係性というよりは複製存在としての葛藤といった風にとらえた方がしっくりくるかな…?と個人的には思います。

一巻の段階では百合的においしい要素はそこまで感じなかったのですが、あとがきを見ると今後は方針展開を変えていきたいとのことで、今後百合的にも発展があるかもしれません。


退廃とした異世界……?『グッバイ・ディストピア

グッバイ・ディストピア1 (百合姫コミックス)

グッバイ・ディストピア1 (百合姫コミックス)

 

 結論から言うと、ディストピアとは特に関係ない……?内容みたいです。

読む前は『少女終末旅行』的な、「廃墟と化した終末世界に二人きりになってる系百合漫画」かと思ったのですが、最初のシーンが地方のローカル線から始まるとおり現代の日本が舞台で、人や町もなくなったりしておらず、日本社会がディストピアになってる世界線かと思いきや特にそういった設定でもなさそうです。

そもそもディストピアという語がポストアポカリプスと実質的に混同されてしまっている現状においてディストピアの定義について説くことにどれほどの意味があるのかとは思いますが、それにしても「現代日本を舞台に世捨て人の女の子二人が廃墟スポットを見つけ出し巡礼して回る話」に「ディストピア」を冠するのはちょっとしたタイトル詐欺ではないかと言う気もする。

 現状ではまだ二人の旅や行動の動機、過去が空かされていない、そして何か切実なものを直接的にうったえるわけではないので、「世捨て人」「生活から逃げたかった人」の二人とで交わされるやり取り、寂れたスポット巡り、その何となくの雰囲気を楽しむ漫画になっています。

今のところは他愛ないお喋りと移動が多く退屈な部類かもしれないのですが、今後の種明かしで良作になるかもしれません。


タイムトラベル/ループSF『明日、きみに会えたら』

明日、きみに会えたら: 1 (百合姫コミックス)

明日、きみに会えたら: 1 (百合姫コミックス)

 
明日、きみに会えたら: 2 (百合姫コミックス)

明日、きみに会えたら: 2 (百合姫コミックス)

 

これは今回読んだ中ではけっこう面白かった。 タイムトラベルループもので百合となれば『紫色のクオリア』を思い出す人が多いかと思うのですが、それと近い系統かと思う。

主人公の子が卒業式の日に幼馴染のお姉ちゃんに告白するはずが、当日の朝目が覚めたら15年後の自分になっていた……というところから始まります。巻き込まれ型のループから始まりますが、当初は状況を受け入れられない主人公の子がそこから主体的な選択をしていくようになるさまが描かれており、多彩な家族との出会いが作品に広がりを与えています。

物語に首を傾げる部分も残るのですが吸引力はとても強く、キャラクターも魅力的で、相手を想う気持ちのひたむきさが描かれている良作です。


 結び

自分の知る範囲でですが、これまではSFものやファンタジー作品の連載は百合姫ではごく少数で、どちらかというと現実の日本を舞台にした作品がメイン(今もそうですが)、ファンタジー世界を舞台にして描く作家は(大北紘子先生など)ごく少数にとどまっていました。

現在のSF連載作品などを見て思うのは、多様性を押し出す意味でもそうですが、従来の百合ものや恋愛ものといったジャンルの規範にとらわれない他ジャンルの要素を持ち込むことで、本格的に長編のストーリーを作って行こうとしているのかなと思います。

百合漫画としてというよりは、SF漫画とかファンタジー漫画といったジャンルに当初から百合要素を組み込んで作るといったスタイルに寄っているのかもしれません。体感としては、+αで百合があるといったような。コミック百合姫以外のレーベル(電撃大王コミックキューンなど)でも現在は多くの一般百合漫画が出ているので、それに対抗できるだけの(世界観の)強度を持った百合漫画を出していこうとしているのではないでしょうか?……というのが私の仮説です。

 

最後に、

百合姫コミックスではありませんが、「百合漫画」の枠内から出た「SF百合漫画」の名作として、わたしからは西UKO先生の『となりのロボット』(2014年、秋田書店)をお勧めします。

この作品は百合としては女性型ロボットの"ヒロちゃん"と主人公のチカちゃんとの交流を通じた恋愛ものという位置づけになるのですが、ロボット個体としてのヒロちゃんの目的がヒトの情動反応をなるべく近似してシミュレートできるようになること…であり、相手との交流を積み重ねることによる自己回路の形成というのがSF的にもテーマになっています。恋愛感情といったものを工学的に扱い、そしてそのことによって、思う感情の真実性を根拠づけることにも成功しています。

『となりのロボット』は百合という題材とロボットSFというテーマを双方から深めている、本格的なSF百合漫画の秀作といえるでしょう。

となりのロボット

となりのロボット

 

 それではこれまで読んでいただけてどうもありがとうございました。